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漫才:木屋町
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きよ: ヨー、久し振りやな。どうした、顔が赤いな。
やす: アー、水分補給したさかい。このクソ暑いのに、何の用や。木屋町で何ぞええことあるんか。
きよ: 外でもないけどな、わしの隣に。
やす: ああ、知ってる。頑固な親父とベッピンの娘が住んでる。
きよ: それは反対側やがな。
やす: あの娘と祝言すると言うのとちゃうやろな。
きよ: あほ言え。あの娘はもう5、6年前に嫁に行ったわ。
やす: あっ、こいつ振られよって。
きよ: 何言うとんのや。わしの言うのは、婆さんの住んでた方のことや。
やす: そう言えば、ちょっと色街風の婆さんがおったな。
きよ: その婆さんも去年亡くなって、入って来たのが、偉い先生でな。
やす: ハーバードの。
きよ: そこまで偉くないけど。京都のことに詳しい先生でな。
やす: スケベな先生やな。
きよ: 何でスケベなんや。
やす: 舞妓はんとか芸妓はんとか調べとんのとちゃうか。
きよ: 違う、違う。反対や。斬った斬られたの方や。
やす: 何や、その斬った斬られたちゅうのは。
きよ: その先生、幕末のことを調べてはるんや。
やす: 幕末言うたら、もう10年前のことやないか。
きよ: 何が10年前や。もうちょっと昔や。その頃は、この高瀬川には首の無い死体が浮かんでたんやで。
やす: 首が無かったら上手いこと泳げんやないか。
きよ: 泳ぐも何も、首はねられて、川に放り込まれたんや。
やす: こないな浅い川、ポッカポッカ死体が浮かぶんか。どじょうでも腹が着くやないけ。
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きよ: もう、ええっちゅう言うねん。ええと、森鴎外ちゅう人が、「高瀬舟」ちゅう小説を書いたんや。
やす: お前、何見ながら、話しとんのや。
きよ: そやさかい、今日はな、呑むのと違て、たまには木屋町の歴史を訪ねてみよと、先生に書いてもろたんや。
やす: 歴史を訪ねるやと、誰に向こてそんな大それたことぬかしとんのや。
きよ: お前かて、この間木屋町はいろいろ面白いことがあったんやなと言うてたやないか。
やす: わしがそんなこと言うわけないやろ。
きよ: 何や、そうか、人が折角教えてもろて、ノートまで作ってきたちゅうのに。そうか、それなら、もう競馬の金貸さんことにするわ。
やす: おい、ちょっと待った。ボートも貸さへんのか。
きよ: 当たり前やがな。
やす: そしたら、聞いたる。聞いたるがな。
きよ: 何や。別に無理に聞いてもらおとは思てへんで。
やす: 聞く、聞く。何でも聞くがな。
きよ: そうか。でも、お金を貸さへんから、聞くちゅうのは嫌やな。
やす: そんなことあるかいな。絶対無い。
きよ: そしたら、何のためや。
やす: 警察に捕まった時助けてほしい。
きよ: アホ、そんなことできるかいな。こないだかて会社クビになりかけたのに。
やす: 頼む。死体の話でも、舟券の話でも何でも聞くさかい。
きよ: ほんまやな。
やす: 何や、わしが嘘言うてると思うんか。
きよ: まあ、ええわ。それで、この四条小橋の辺りから、その高瀬舟が出たんや。
やす: スタートやな。オッズはいくらや。
きよ: お前が考えとんのは、競艇やろ。
やす: レースのことやろ。
きよ: もうええわ。先が思いやられる。
やす: もう終わりか。
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きよ: 終わりなもんか。信号渡ろ。その新橋を渡ってすぐや。
やす: レース場に橋が架かっとんのか。
きよ: お前、見る気が無いんやったら、行かんでもええ。ベッピンさんに断れなんだら、お前を呼ばへんかったのに。
やす: おい、お前、さっきから格好つけて、先生に教わってきたやのノートを付けてきたやのぬかしやがって、ほんまは女と来る気やったんか。
きよ: そうや、それが何悪い。
やす: わしのために、勉強してきたんと違うのか。
きよ: 何でわしが怒られなあかんのや。一番目は女の子やけど、二番目がお前やないか。
やす: 二番目がわしか。まあ、ええやろ。
きよ: ここや、古高俊太郎邸跡。
やす: ふむふむ。
きよ: お前、どこ見とんのや。
やす: あの店、料亭か。
きよ: やっぱしな。帰ろ。
やす: おい、おい。どこ行くんや。店先に立ってるお兄さん、そいつを捕まえてくれ。
きよ: お前、ええ加減にせんとどつくぞ。
やす: ちょっと、からこうただけやないか。ちゃんと読んどるがな。近江の人で、父は近江の古高の出で---。
きよ: もっと先や。
やす: おう、新選組が出てきた。そいでもって、拷問されて、池田屋事件か。
きよ: この人が捕まったんが、池田屋事件の始まりや。
やす: 痛かったんやろな、拷問されて。
きよ: お前、そんな気持ちがあるんやったら、何で人を殴ったりできるんや。
やす: わしは、しらふで人を殴ったりは、たまにしか、せえーへん。
きよ: あるんやないか。
やす: たまにや。
きよ: 酒呑んだら、いつもか。
やす: そいつらも酒呑んで、やったんやろか。
きよ: お前と一緒にすな。仕事や。
やす: わしは仕事やったら、よう殴らんな。
きよ: よう分かる。お前はそういう人間や。
やす: ---。
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きよ: これや、斬った斬られたちゅうのが、この標札にある本間精一郎や。
やす: ほんまかいな。
きよ: 何をしょうもない駄洒落を言うとんのや。
やす: 誰や、その本間なんたらいうのは。それにしても、えらい薄汚ない標札やな。
きよ: 薄汚ないて、あんまし本当のこと言うな。こっちの筋に来てみい。斬り合いをしたときの刀痕がこれや。
やす: ひぇー、戸口にはっきり残ったるやないか。上からばっさり斬ったんやな。痛かったな。
きよ: 木が痛いて思うかいな。
やす: こんな狭いとこで斬り合いするんか、昔の人も大変やな。
きよ: ほんまや。
やす: お前かて駄洒落言うてるやないか。
きよ: 駄洒落やないがな。こんな腕も広げることできんとこで、よう斬り合いなんかしよるわ。もっとも、昔はこの先が先斗町につながってて、そっちから逃げて来てやられたらしい。
やす: そうかー、この先は先斗町か。あっ、でこ打った。
きよ: 何しとんや。今はもう行き止まりやがな。
やす: そりゃ、卑怯や。わし、先斗町に行きたい。
きよ: 先斗町に行きたい言うのやったら、金持ってるんかいな。
やす: 自慢やないけど、ここに来るまでに全部使こてもた。
きよ: 金無いんやったら、首斬られんうちに早よ出よ。目の前の学校が立誠小学校言うて、昔土佐の藩邸やったとこや。 |








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やす: あそこの兄ちゃん、わしらを見て、愛想よくお辞儀してるやないか。何か呉れるんとちゃうか。
きよ: 今、金は無いと言うたばかりやないか。あないして、女のとこに連れて行って、金を巻き上げようちゅう算段や。
やす: 悪い奴っちゃな。警察に電話したろか。
きよ: お前に言われたらあかんわ。あない立ってるだけで、捕まえられるかいな。
やす: 残念やな。
きよ: 残念なことあるかいな。お世話になってる人もいるんやさかい。
やす: おい、ここは学校やないか。
きよ: さっき言うたやないか。立誠小学校いうとこやったやけど、今は廃校や。
やす: そやろなあ。飲み屋とかキャバレーとか、子供がしゅっちゅう行くとこと違うわな。
きよ: お前、たまにはまともなこと言うな。ほら、学校の入り口に高瀬川の沿革が書いたる。
やす: 昔はここを舟が通ってたんか。
きよ: そうらしい。幅はこの倍位あって、人が引っ張って、荷物を運んでたんや。
やす: おいおい、見てみぃ。橋が高くできてるわ。やっぱり、大文字見るとき見やすいようにか。
きよ: そんな悠長なわけないやろ。舟に荷物を載せるさかい、嵩高になって、橋も高くしたんや。
やす: ああ、そうか。荷物載せるさかいな。そうやろ、今の橋では犬もぶつかってまう。
きよ: この小学校に、土佐藩があったんや。そのせいで、ここらは土佐の人間の棲み家跡が多い。
やす: 土佐言うたら、わしの田舎やないけ。いつの間に引っ越して来たんや。
きよ: お前はアホか。土佐藩が場所を借りて、藩邸を建ててただけや。
やす: 何や、場所を借りてただけかいな。良かった。わしはまた、高知がえらい小さなったと心配したがな。高知言うたら、室戸岬もあるし、播磨屋橋もあるし、土佐湾もあるやないか、それがこんな小さなとこにどないして入るんやろと心配した。
きよ: お前は気違いか。何でそんなこと心配するんや。土佐の人達がここに固まって住んでただけの話やないか。
やす: やっぱり一人で住むのはさみしいんやな。
きよ: さみしいかどうか知らんけど、坂本竜馬はここに住むのを嫌がったらしい。
やす: 播磨屋橋が無いさかい。
きよ: あの人は浪人ちゅうて、土佐藩を出た人やからや。
やす: 藩を出たんやったら、もともとこの辺うろうろできんやないか。
きよ: お前、アホかと思てたけど、ええ突っ込みをするな。
やす: おだてたらあかん。
きよ: 若い頃、土佐藩のやり方はあかんと思て脱藩して、一時土佐藩から狙われることもあったんやけど、幕末の終わりの頃は土佐藩でも考えが変わって、竜馬を大事にするようになってたんや。
やす: そりゃそうやろ。坂本竜馬というたら、---何した人やった。
きよ: お前、坂本竜馬というたら、幕府を倒した人やないか。
やす: そりゃ違うやろ。幕府を倒したんは薩摩と長州やろ。
きよ: おお、実際に幕府を倒したんは薩摩と長州やけど、その倒し方を教えたのが坂本竜馬よ。
やす: 何や、教えただけかいな。 |







 



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きよ: そうや、残念なことに、幕府を倒す前に殺されたんや。
やす: お前、泣いてるやないか。嘘泣きちゃうか。
きよ: アホ、嘘泣きなんかしても仕方ないやないか。この藩邸の反対側や。近江屋ちゅう醤油屋で、中岡慎太郎と一緒にやられたんや。
やす: 誰や、その中岡慎太郎ちゅうのは。醤油屋の旦那か。
きよ: アホ。さっき坂本竜馬は浪人やったと言うたろう。浪人やったら、藩からの給料が出へんから、自分で工面して飯食わなあかん。それで、船を借りて、外国の商人から鉄砲を買い付けて、それをよその藩に売ったりしたんや。
やす: やっぱし、高瀬川で。
きよ: 高瀬川の舟はせいぜい人が引っ張る大きさやないか。竜馬のは蒸気船やで。それで、東シナ海や瀬戸内海を走ったんや。
やす: すごいな。瀬戸内海いうたら、鴨川より広いんやで。
きよ: 鴨川どころやないわい。淀川より大きい。
やす: そんな広いとこを一人でよう走り回ったな。
きよ: 一人やない。
やす: お前、さっき浪人て言うたやないか。
きよ: そや、浪人かて竜馬以外にもおったがな。その浪人達をまとめたのが、海援隊よ。
やす: へえー、あの武田鉄矢の。
きよ: アホ。あれは今の人やないか。武田鉄矢は坂本竜馬を尊敬して、名前を借りただけや。
やす: 中岡慎太郎ちゅうのも、海援隊やったんやな。だんだん分かってきた。
きよ: いやいや、中岡慎太郎は陸援隊の隊長で、竜馬はもっぱら海の上で浪人を率いて、中岡慎太郎は陸で勤王の浪人を率いたから、海援隊に合わせて陸援隊と名前を付けたわけや。
やす: 海やとか陸やとか、そない浪人がうろうろしてたんか。
きよ: うろうろはないやろう。けど、この時代は浪人が主役やったかもしれへんな。
やす: さっきの本間何たらもそうやったな。
きよ: 浪人というたら、何と言っても新選組がおるがな。
やす: へえ、あいつら浪人やったんか。
きよ: もともとは武州の浪人や。
やす: せやけど、だんだら模様の羽織着たり、羽振りが良かったんちゃうか。
きよ: 京都に来て、守護職会津の殿様の家来になってしもたからな。
やす: 旦那を見つけたわけや。
きよ: まあ、そういうこっちゃ。
やす: わしかて、近藤勇とか、土方歳蔵とか知ってるわ。それから、あの色男の---
きよ: 沖田総司。
やす: そう、沖田総司や。かっこええで、この辺をのし歩いて浪人をばっさばっさ斬るんやで。
きよ: それが何でかっこええんや。斬られてるんは、坂本竜馬や中岡慎太郎の仲間やで。
やす: ええ、ほんまかいな。新選組と坂本竜馬は敵同士か。
きよ: 新選組は幕府方、坂本竜馬は幕府を倒す方やからな。
やす: 困ったな。
きよ: 何が困るんや。
やす: わしゃ、どっちもファンやからな。
きよ: あかん、あかん。ここは幕府方か討幕方か、どっちかにせえ。
やす: どっちも好きやったらどうなる。
きよ: どっちも好きやったら、どっちからも狙われるな。
やす: どっちも好きやったら、どっちも好いてくれるんと違うんかいな。
きよ: それはできん話やな。徳川幕府は250年続いて、いろいろ直さないかんとこを、自分に都合のいいように考える。反対するもんは殺してまう。
やす: 何やしら、わし達えらい難しいこと話してるんとちゃうか。
きよ: お前が、アホなことを尋ねるからやないか。
やす: お前も、何もまじめに答えることはないやないか。 |



 




 

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きよ: そや、わしが悪かった。さあ、ここや坂本竜馬が海援隊の本部にしてたとこや。
やす: わあ、西日がまぶしいな。向こうから来る人、真っ黒や。ここか、酢屋て書いたる。酢を売ってる店やな。
きよ: それは屋号や。ほんまは材木屋や。
やす: ほんまや、材木たら置いたるわ。
きよ: この通りは、竜馬にちなんで竜馬通りて言うらしい。
やす: 竜馬通りやったら、うちの近くにもあるがな。
きよ: やっさんは伏見やったな。
やす: そや。うちんとこの竜馬通りやったら、竜馬グッズも売ってるし、竜馬寿司ちゅう寿司屋もあるがな。狭い道やけど、あちこち竜馬だらけやで。
きよ: 何か宣伝のビラみたいやないか。
やす: あるもんは、竜馬でも何でも使えちゅうやないか。
きよ: 知らん。そんな言い草。
やす: 竜馬通りをちょちょと曲がったら、寺田屋や。こんなきれいな店と違うで。土間をあがったら、べったり畳が敷いてあって、2階には竜馬の部屋まであるんや。遊びで竜馬が付けたちゅう刀痕まであるわい。
きよ: お前、見かけによらず、歴史通やないか。
やす: 取り巻きに囲まれたとき、お竜さんが入っていたちゅう風呂まで残ってるわ。
きよ: それは、取り巻きと違て、捕り方やろ。
やす: 愛する人のためならと、素っ裸で2階に駆け上がったその純情さ、お前には分からんやろ。
きよ: 素っ裸で、若い娘が。
やす: お前、いやらしいこと考えてるやろ。
きよ: アホ、お前と違うわ。
やす: 竜馬に取り巻きのこと教えたら、今度は薩摩屋敷や。
きよ: 取り巻きと違う。捕り方て言うたやろ。
やす: 何しろ無我夢中やったから、薩摩屋敷でもびっくりして、あわてて着物着せて隠もうたらしい。
きよ: そりゃ、びっくりするやろ。若い娘が素っ裸で飛び込んできたら。
やす: 同じこと何回言うとんのや。アホ。
きよ: ごめん、つい。何で、わしが謝らなあかんねん。お前はツッコミか。わしの仕事を取るな。
やす: 分かった、分かった。先行こ。
きよ: もうやりにくいな。いつもやったら、お前がいやらしいとこやるのに、伏見やからちゅうて、いい役取りおってから。
やす: この店にはお竜さんは出てこんのか、素っ裸で。
きよ: アホ。ここには出てきーへん。けど、竜馬の部屋はある。あの出格子の部屋や。刀痕は無いけど、あそこから鉄砲をぶっ放したことがあるらしい。
やす: やっぱり取り巻きに囲まれてか。
きよ: 捕り方やちゅうてるやないか。この向かいの建物はその頃は無くてな、舟入りちゅうて、小さい波止場やったんや。舟やないやろうけど、波止場めがけて試し撃ちしたらしい。
やす: そう言えば、わし最近鉄砲さわってへんな。
きよ: こらこら、何をお客さんの前で言うてるんや、警察に捕まえに来てくれちゅうとるようなもんやないか。
やす: 竜馬も捕まったんか。
きよ: 竜馬は天下を動かした人やど。お前みたいにヤクザくずれの芸人と違うわい。
やす: お前、わりかしきついこと言うやないか。この前が波止場やったんやったら、レースなんかしたんやろか。
きよ: してへん、してへん。そんな昔にモーターボートなんかあるかいな。
やす: 漕ぎ手の兄さんに、わしと組んでボートレースやらへんかて誘ったりして。
きよ: 誘わへん、誘わへん。
やす: ただのレースやったらおもろないさかい、金賭けようちゅうて、兄さん達の財布を空にして。
きよ: それは、お前のことやないか。二条の方にまだ波止場が残ってるさかい、後で見に行こか。 |


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やす: こんなとこに長浜ラーメンがあるわ。ラーメン食いたなってきた。
きよ: ここは安いし、おいしいで。
やす: この寺は豊臣秀次と書いてあるで。
きよ: そや、関白になったんはええけど、秀頼が生まれから、秀吉にうとまれるようになったのも気付かんと、終いに腹切らされたんや。嫁はんや子供達も三条河原で斬られてる。
やす: あんまし気色のええ話と違うな。
きよ: ほんまや。今は平和やけど。昔は物騒な世の中やったんやで。
やす: この通りに出たら、えらい脚出したり、胸出してるおなごが多なったな。
きよ: 暑いさかいな。
やす: あのネエちゃんのケツなんかたまらんな。えらいプリプリしてけつかる。 |



  

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きよ: また悪い病気が出てきた。通り渡って、池田屋に行こ。
やす: お前も好きやな。そんなとこ知ってるんか。
きよ: 何か勘違いしてるんと違うか。わしが言うてるんは池田屋や。
やす: そやろ、隠すな池田屋やろ。
きよ: ここや。
やす: 飲み屋やないか。
きよ: あの橋が三条大橋で、東海道の終りやったせいで、この辺り、旅篭つまり宿屋が多てな、池田屋もその一つや。
やす: お前に聞かんでも、書いたる。なるほど、なるほど。
きよ: お前、ほんまに分かって、読んでんのやろな。
やす: 大体は分かる。ここに書いたる古高なんたらちゅうのは、さっき行ったとこやないけ。
きよ: へー、祇園祭の宵々山にやったんか。
やす: 20人以上おるとこを、たった4人で斬り込んだ。えらい奴っちゃな。わしやったら、えらい済んまへん、ちょっと用事思い出しましてん言うて逃げるやろな。
きよ: わしかて、枕かかえて逃げるがな。
やす: 死んだ奴の名前も書いたるけど、全然知らんな。
きよ: 近藤勇が虎鉄を下げて、この階段から上って行ったんや。羽織を脱いで、たすき掛けして、虎鉄を唾で濡らして。
やす: おいおい、人が見てるやないか。
きよ: わしともあろう者が、つい興奮してしもた。
やす: 池田屋事件で、明治維新が1年遅れたと書いたるで。何で、1年も遅れるんや。
きよ: 何でて、そりゃ3時間も斬り合いしたら、家も大分壊れるがな。直すまで1年くらいかかるやろ。
やす: アホ、池田屋のことを聞いてんのとちゃうわ。
きよ: そりゃ、明治維新やろ。何で1年も遅れたんやろ。こら、難しいこと聞くな。
やす: 中に新選組の絵とか貼ったる。入ろか。
きよ: あかん、あかん。今頃入ったら、木屋町を最後まで見れへんがな。
やす: 木屋町なんか、どうでもええやないか。
きよ: よくない、よくない。昔の競艇場を見れへんで。
やす: それもそうやな。
きよ: 四条もええけど、三条小橋から見る高瀬川も風情があるな。
やす: 風情ちゅう面か。何か、ここに石碑があるで。
きよ: これは先生から習ってきてる。佐久間象山と大村益次郎がこの先で暗殺されたんや。
やす: また、暗殺かいな。昔の人は、よっぽど人殺しが好きやったんやな。
きよ: 好きちゅうこともないやろけど、ほんまに命懸けちゅうことや。 |


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やす: わしは、歩いてくる途中で、何や武士とぶつかったような気になったわ。新選組と違うやろか。
きよ: そりゃ、新選組と違うな。新選組やったら、ぶつかった途端に斬られてる。
やす: 新選組と違たら、誰なんやろ。
きよ: どんな格好やった。
やす: それがな、変な格好してたで。頭巾して、片手を懐手にしてたわ。
きよ: そりぁ、鞍馬天狗やな。
やす: そや、そや。鞍馬天狗や。どこかで見た奴や思たら、鞍馬天狗や。小さい頃、ようチャンバラして、鞍馬天狗ごっこしたがな。
きよ: 古い話やな。今時、鞍馬天狗なんか誰も知らへんで。
やす: 鞍馬天狗もあれか、人殺しやったか。
きよ: あれは違うやろ。勤王の志士やったんと違うか。「東山三十六峰、草木も眠る丑三つ時‐‐。」嵐寛十郎の十八番やった。
やす: お前もよう知っとるやないか。そうか、正義の味方やったもんな。お前も鞍馬天狗ごっこやった口やな。
きよ: わしは違う。わしは月形半平太や。
やす: わしより古いがな。 |





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きよ: ここや、月形半平太、もともとの名前が武市半平太の寓居跡。
やす: 「月様、雨が。」「春雨じゃ、濡れて参ろう。」
きよ: 気色悪い声出すな。お前が言うと、馬券売りみたいやないか。
やす: 何言うてけつかる。わしは、小学校で月形半平太やったことがあるんじゃ。
きよ: お前が。月形半平太やったん。
やす: そうや。文句あんのか。
きよ: 「月様、雨が。」をやったんか。
やす: いやいや、正確に言うと、月形半平太やない。
きよ: 正確も何も、月形半平太やったんと違うやろ。誰をやったん。
やす: 芸妓の梅松の友達や。
きよ: 友達て何や。ああ、下男か。
やす: 早く言えばそうや。
きよ: 遅う言ってもそうや。どんな台詞やったんや。
やす: 昔のこと、覚えているか。
きよ: 台詞無かったんやろ。
やす: やかましわい。今思い出してるとこや。「杉作、日本の夜明けは近い。」とかと違たかな。
きよ: そりゃ、鞍馬天狗や。
やす: 「この桜吹雪を知らねぇとは言わさねぇ。」
きよ: 大岡越前や。
やす: 「どこの誰かは知らないけれど。」
きよ: 月光仮面や。まだやんのか。
やす: いや、もうええ。ほんで、何の話やった。
きよ: お前の月形半平太の芝居の話や。
やす: 思い出した。ほんで、月形半平太の家がここかいな。
きよ: 月形半平太は話で、その元になった人はれっきとした土佐の武士や。坂本竜馬の先輩で、土佐の政治を変えようとして、腹切らされた人や。
やす: お前は人殺しとか切腹とかそんな話ばっかりやないか。もっと、パァと景気のええ話はないんか。 |




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きよ: ある、ある。パァと景気のええ言うたら、この人や。吉村寅太郎。ほら、ここに吉村寅太郎寓居跡てあるやろ。
やす: 吉村寅太郎、知らんなぁ。
きよ: そりゃ、お前はんが知らんのも無理無い。何せ27歳という若さで死んだんやさかい。
やす: 何しでかしたんや。
きよ: 幕末の頃は無鉄砲な人がわんさか出たけど、この人は3本の指に入る。
やす: 能書きはええから、はよ話さんかい。
きよ: お前、奈良の五條ちゅうとこ知ってるか。
やす: じれったい奴ちゃな。五條でどうした。
きよ: 江戸時代には、幕府が五條に代官所を作って、大和の国を抑えとったんや。
やす: 何や、五條の代官所がそれでどうした。
きよ: お前、興味無さそうやな。
やす: 当たり前や。パァと景気のええ話言うんかと思たら、五條の代官所がどうたらこうたら。
きよ: そいじゃ、話すの止めや。
やす: ええから、話しいな。話したいくせして。
きよ: この五條代官所を襲ったんや。吉村寅太郎が。
やす: そりゃ、無茶やがな。痩せても枯れても、幕府の出先やないか。
きよ: ところが、1日でやっつけおった。
やす: 1日で、そりゃうまいことしでかしたな。
きよ: 代官所を襲ったまではええ。その後があかん。
やす: 何や、すぐやっつけられたんか。
きよ: 勢いに乗って高取城を乗っ取ろうとしたのがあかんかった。これで負けてしもた。
やす: アホやな。1回勝ったというて、すぐ調子に乗る奴は終いに負けおる。
きよ: おいおい、バクチと一緒にすな。
やす: 分かってるわい。酒の呑み過ぎで失敗したんや。
(終わり)
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関連サイト
幕末の史跡を訪ねて
幕末の京都を歩く(地図)
洛中(1)河原町・木屋町・京都市役所周辺(写真)
幕末ゆかりの木屋町界隈(写真)
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